Roots* food

藤井将也 X 鈴木裕之

1975年にセントラルアメリカンヨーヨーが日本で誕生しました。主に駄菓子屋で販売されていたヨーヨーは瞬く間に少年達の心をとらえ大流行しました・・・。本企画は当時を知らない世代の5人のプロフェッショナルと鈴木裕之が昭和(70年代)への思いや受け継がれている事などを語ります。

第二回はフレンチシェフの藤井将也さんです。

進行: 1970年台にこのセントラルアメリカンヨーヨーが販売され、子供たちの間で大ブームとなりました。(一部地域除く)ご存じですか?

ヨーヨー取り出します。

藤井シェフ(以降F): 初めて見ます・・・・へ~・・・かわいいな・・・。子供に受けるように、動物とか魚とかがデザインされてるんだ。これ今販売されても欲しいと思います。

進行: このヨーヨーが当時売れた原因は3つ考えられます。一つは駄菓子屋で売ってたというシチュエーション。

F: 子供が手をつけやすかったのか・・・。

進行: 次はこのフォルム。手に持った時の感覚。この時代似たような玩具があまり無かったので子供にはうけました。

F: 自分が使う物は持った時の感触って凄く大事ですね。

進行: 最後は「アメリカから来たっ」というバックボーン。これが大きかったと思います。藤井さんにとっても料理(フレンチ)を始めたきっかけがあったと思いますが、ハマったきっかけを教えていただけますか。

F: そもそも僕はイタリア料理がやりたくて、専門学校に通いました。「パスタこうやってやるのがかっこいい」とか色々自分なりに構想はあったんですけど、現場実習があったときに、先生が僕をイタリアンではなくフレンチに飛ばしたんですよ。なんでイタリアンなんですかと聞いたら、僕が学校終わってから実習室で一人で実技の練習をもくもくとしていて、それを先生が見ていたらしく、「君は作り込む性質なんでフランス料理の方がいい」と。自分流イタリアンの構想があったので、正直迷いましたよ・・・。

そんな状況の中、先生に誘われ高級フレンチで研修を受けて、そこのブイヤベースを味見させてもらったんですよ。そこで衝撃を受けて。お店の雰囲気とか食器なんかも鮮明に覚えています。シチュエーション、料理のフォルム・・・僕の中でのハマった要素がその店に詰まっていました。

進行: そのお店の料理にハマったという事ですか。

F: ん~・・・料理というよりスタイルですかね。フランス料理ってストレートじゃないというか。料理好きな人が食べても、何が入ってるかわからない。ワクワクするんです。ソースとか・・・そういうのが真髄だなと思っていて。それで結構ハマってしまって、それ以降はずっとフランス料理です。

鈴木(以降S): 僕がヨーヨーにハマったのもトリック(技)やっててワクワクが止まらなかったです。

進行: 道具に関してお聞かせください、和食と聞くと包丁など道具を大事にされるっていうイメージがすごくあるんですけど、フレンチ、藤井さんは如何ですか?

F: 僕は道具を大事には使ってますけど、この包丁とかは(厨房から包丁を取り出す)家庭用で安い物です。12年くらい使ってます。僕が駆け出しでお金がない時に河童橋で買った物で・・・刃が短いんですよこれ、プロ用としては。働いてた店が狭い店だったのでこれを選んだのですが。ただ、これよりモリブデン銅とか材質のいいものはあるんですけど、正直僕が表現したい料理はこれでいいと言うか。手になじんでいるので、高価ではありませんが、これが僕の最高です。

S: なるほど。ヨーヨーと似てますね。

F: 確かに!このヨーヨーではこの技はちょっとできないとか。スリープ(ヨーヨーが回転したままの状態)が短いけど、戻りはいいよねと同じかな。俺の中ではそれらしいものが3本あれば全部のトリックができるって感じです。(笑)

進行: その時代その時代でフレンチの流行ってあるんですか? 

F:  ありますね。1970年代以前は、バターとクリームで重い料理が主流で、それを簡素化しようというか、素材の味を打ち出していこうとなったのが1970年くらいだと思います。レシピを簡素化したんです。それをヌーベルキュイジーヌと言って直訳すると「現代風料理」なんですけど、ヌーベルキュイジーヌの風が吹いたのが1970年台。で、それは、これは俗説なんですけどやっぱ和食の影響もあるんじゃないかと。当時のスターシェフも公言してますけど、和食には度肝を抜かされたみたいでフランス料理もこれでいいんじゃない?と。この工程いらないんじゃないと。料理が軽くなった。その時に、地方の料理その北海道なら北海道のものを使って北海道で出すって言う流れも生まれた。宮廷料理じゃなくて地方まで大衆化された料理が生まれたって言うのが1970年代ですね。

S: このヨーヨー(セントラルアメリカンを手に取り)が生まれた当時フランスではそんなことが起こっていたんですね。

進行:音楽も70年代にはビートルズが出てきたりと、様々なジャンルが生まれ変わる時代でしたね。

S: 日本でのヨーヨーも70年代に認知され、90年代にハイパーヨーヨーが登場し進化する。そう考えると70年代って重要ですね。

F : 70年代は興味深い変化が多いですよね。

進行:素敵なお店ですけど(店内見渡して)道具以外でこだわりの物はありますか?例えば食器とか・・

F: 皆さんが普段ご飯食べに行かれたりするお店って暖色だと思うんです。Woodとかオレンジとか、コテージみたいな温かみのある店が多いんですよ。でもうちは逆で、寒色で硬くて冷たいイメージにあえてしてます。店は寒色にして、逆に食器等のアイテムは明るく散らしています。おもちゃ箱や雑貨店をイメージしています。食器や料理1つ1つの個性を演出したいと。それこそフランス料理の流儀からはこれに関しては離れます。本当は調度品とかシャンデリアとか高級感を出していくのでしょうが、当店は可愛らしい感じにしたかったので。

S:それでお皿の色が全部違うんですね。

F : そうなんです。グラスも違うし。なかなかこれは商売として面白いことで、陳列するときに5色並んでいるからかわいいってありません?そこから1つだけ選んで別の場所で見たらなんか違うなみたいなwそのセントラルアメリカンも、それくらい(テ―ブルにある複数のヨーヨー)あると好きですよ。

S: 当時の子供も2つ3つヨーヨー持っていたらしいので、そんな感覚だったのかな

進行: 最後にお店についてお聞きします。お店を入ってちょっと意外だなと思ったのは、まずカウンターがあるんですね。ここでも勿論食事をされるお客様はいらっしゃる?

F : 基本的に、調理台がテーブルと同じラインっていうのはないんです。調理台が高い店はあると思います。それは、見せないようになんです手元。でもうちは同じラインで、しかも厨房が一段低いから器具まで見れるんです。なぜかと言うと料理を作る工程はショーなんです。その作った料理が直ぐ自分の前に出てくるって嬉しいじゃないですか。あの盛り付けした料理がいざ出てくる。

もう一つ。僕がサボれないから自分を縛る意味もあります。(笑)掃除も暇さえあればやってます。かなり清潔ですよ。

S: カウンターで食事出来るのが売りなんですね。

F : いいホテルに行くとシェフズテーブルという料理長が作る個室があるんです。高級ホテルのキッチンで働いていた事があるのですが、それはもう芸能人とか外界と接さない席で、一番高い席なんです。ある意味このカウンターはそこなんです。シェフズテーブルなんですよまさに。日本の人ってカウンター嫌がったりするんですけど、逆で、本来ここが一番高い席なんです。だってここから出す料理冷めるわけないですもん。

シェフ自らサーブする、一番いい席です。

S: 今度友達にカウンター勧めます。

F: と言いながら、実は最初のお客様にはカウンター席はお勧めしていません。最初はテーブルに座って食べてもらいます。カウンター席はまぁ付加価値です。2度3度来ていただいて料理を満足していただいたお客様に、またお店に来ていただく為のスペシャルメニューです。まぁとは言え初めてのお客様でも「カウンターいいですか」って聞かれちゃうと・・・・ねぇ。最初からこちらがカウンターにお招きすることはないです。ただ、一人でこられたらお通しします。一人でフレンチに来るって勇気いると思うんで、それで奥の4人テーブルとか一人だったらちょっとね(笑)

進行: 料理のお勧めは?

F: これがですね、厳密に言うとないです(笑)

スペシャリテという概念があるのですが、料理人の中で、彼はこれが名刺がわりだっていうのよく聞くと思うのですが、それは常々思ってるんですけど、自分で決めるものじゃないよねって思ってるんです。またあれ作ってくれる?っていうのが増えてきて、それがスペシャリテだと思うんで基本的にはないですし、僕の場合は基本同じ料理は出さないです。なぜかというと、飽きさせたくないというのと、通年ラタトゥイユがあるビストロも嫌いじゃないですけど、「今、茄子美味しくないでしょ」とか思っちゃうんですよ。

だから夏だけやればいいし、冬は芋のグラタンとか、根菜とかそういうものを出せばいいなと。

そういう移り変わりが日本にはあるんだから、そんな通年美味しくないトマト食べなくてもとか思ってしまいます。因みに今で言うとホワイトアスパラとか美味しいですよ。春になると貝とか。まさにうってつけですけど山菜が出てきたりとか。僕は山菜をすごい一杯使うんです。田舎生まれっていうのもあって。

S: やっぱりプロフェッショナルの話って楽しいですねどんなジャンルでもそうなんだけどずーっと聞いていられる。拘りだったり、内に秘めた思いなんかが刺さります。

藤井将也  

Bistro Vas_y  気軽に行けるフレンチビストロ Instagram / TEL : 03-6804-0299 東京都世田谷区三軒茶屋1-7-10 1F